2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

用紙の下附を乞うために出した状

次に啓と云う文言のない文書で、この種の書式を具えたものも多く伝わっている。先づ日附に年号の付いているものから挙げるに、 (略) の如きがある。鳥取國万呂と云う者が、吉成と云う人に、用紙五十張の下附を乞うために出した状、用紙は恐らく写経の料紙…

病気の怠状とも称すべき啓

正倉院文書の中にも、この式のものが多くあり、日附に年号を欠いている左の如き啓もある。 (略) 之は後家川麻呂と云う者が、石麻呂、道守と申す両人に、下痢のため出仕し難き由を報じ、その諒承を請うために出した、病気の怠状とも称すべき啓であろ。この…

日付の次行下部に差出所、その次行に充所のある啓

第一四式 (略) この文書は、神宮官の官人三尾隅足が、東大寺に対し、写経生二人を推薦するために出した啓である。その書式は日附の次行の下部に差出所、その次行に充所となっている。なお之と大体同じで、差出所が日附の下に加えてあるものもある。寧ろこ…

奥裏に封の上書のある啓

第一三式 (略) この文書は、朝明人君と云う者が、六郎と申す者に、優婆大原牛養を、その雑使に用いられんことを乞うために出した啓である。奥裏に、封の上書があって、之と表の差出所とを併せれば、前第一二式と略々同じ書式となる。然し、之は封の上書に…

日附の下にも差出所のある啓

第一二式 (略) この文書は石河垣守と云う者が、造東大寺長官に向け、経巻に用いる軸二十柄の下附を請うために出した啓である。奥の異筆は、この要求に応じて下附した由を記したものである。この書式は、前第一〇式と相違するところが、日附の下にも差出所…

日付の次行上部に充所のある啓

第一一式 (略) この文書は、坤宮官(即ち皇后宮職)の下級の官位安宿弟見が、東大寺に向け、大般若経を書写する写経生に加えられんことを請うために出した啓である。書式の特徴としては、始めに差出所があって、日附の下に之が無く、日附の次行上部に充所…

充所が日附の前行の上部にある啓

第十式 (略) この文書は、大宅諸姉と云う夫人が、宗我部人足という者を僧になさんとして、聖大尼と申す者に之が入門を請うために出した啓である。始めに差出所があり、充所が日附の前行の上部にある。この充所の位置は、この文書の書式の特徴である。他に…

充所を始めに書いている啓

第九式 (略) この文書は巾引諸直と云う者が、稻持と申す人に、病人が二月九日に死去し、ために忌中であるから、一七日の後一六日に参向する由を告げるために出したものである。その書式の特徴は、充所を始めに書いているところにある。充所の中、謹進上は…

差出所が二箇所ある啓

第八式 (略) この文書は、益田縄手と云う者が、勝部小黒と申す者に、写経生を推挙し、之を使われんことを請うために出した啓である。その書式は、前第七式と相似ているが、日附の下に、更に差出所が書いてあり、差出所が二箇所にあるところに、この文書の…

封式の上書が完備して残っている啓

第七式 (略) この文書は上貞萬呂と云う者が、道守と云う者に、もし経典を写すべきものがあれば、参向すべきに就き、都合を知らせられ度しと尋ねるために出した啓である。この書式の特徴は、始めに差出所を記し、その下に充所を書いた点にある。なお封式の…

充所が明瞭に書いてある状

第六式 (略) この文書は、阿刀老女と申す者等が、今山背国林郷にあり、嘗てありし古郷を偲んで、或人に送った状である。この書式の特徴は、差出者は本文の中に表してあるが、特に充所が明瞭に書いてある点にある。即ち、「尊者御所(左右)邊」がそれであ…

第三部、第一、第一類状・啓、第一式~第一四式

ここでいまの立ち位置を振り返ってみましょう。 いまは中編古文書の形様の第一部公式様文書、第二部平安時代以来の公文書、に続く、第三部書札様文書です。 そのなかの第一 書札様文書(自奈良時代至平安時代中期)の第一類状・啓です。このなかに第一式から…

僧善珠の状、本文の下に差出者の名

第五式 (略) この文書は、僧善珠が、用事の済んだ書物を送進するために出した状である。差出者の名が、本文の終わりの例文の下にある。これがこの書式の特徴である。かような例は、啓の文言を表した文書にはみえない。而してその例は僅か二通に過ぎない。…

書止めに以解とある啓

この書式の文書は比較的多く伝わっている。啓の文言があって、日附に年号を欠いているものとして、次の如き文書もある。 (略) 書止めに以解と書き、解と混合した書式となっている。幾分公的性質を帯びているように見えるが、部類〔二三八〕に挙げた如き、…

奈良時代の切封

第四式 (略) この文書は、安都雄足が、支払いの代に使用する米として黒米、大豆、小豆を借り受け、これが返済の期日等を、貸主に約するために出した啓である。この書式の特徴は、差出所が日附の下にある点にある。なお、又云々からは追而書に当る。端裏に…

上咋麻呂の文書、啓の文言無し

この種に入る啓は、余り多く伝わっていない。僅かに部類〔二三六〕に挙げたものがあるに過ぎない。日附に年号を欠き、又啓の文言の無いものも無いのである。 第三式 (略) これは、上咋麻呂と云う者が、左右兵衛士府の官に任ぜられんことを請うために出した…

藤原種嗣の公的性質を帯びた啓

第二式 (略) この文書は近衛員外少将藤原種嗣が、東大寺一切経書写の校生(校合に当る者)を貢進するために出した啓である。種嗣の二字のみ自筆にて書し、他は右筆の書いたものである。且つ差出者の位署が、日附の次行となり、而も上判となっていることは…

日付に年号が付いている啓

なおこの形式のものに、〔二三三・二三四〕がある。以上挙げた文書には、日附に皆年号が付いている。年号が無く月日のみのものもある。之は数が極めて少ないから唯部類〔二三五〕に挙げておく。 以下各種のものが部類編に挙げてある。この編の説明と対照せら…

和雄弓という者の啓

これは和雄弓と云う者の啓、写経生に採用せられんことを請うために出したもの、幸に採用せらるれば、私の祈願も果され、且つ生活の便りを得ると述べている。「但恐」以下は、卑下して懇願の意を表した文言、主奴、下生は共に謙語と見るべきものである。書止…

主奴左京下生和雄弓誠恐誠惶謹啓

右両通と同じ書式で、個人が出した形式となっているものがある。之には書始め、或いは書止めに、種々鄭重な言葉を添えているものもある。又かようなことが無く、前掲の両通と殆ど相違を見ない文書もある。今最も鄭重に書き表したものを示そう。とのことです。

岡本家謹啓 本経請奉事

(略) この文書は、岡本と称する家に於いて写経を致さんとして、その本となる経を、或る写経所に下附せられんことを請うために出したものである。日附の次行に署名を加えている者は、家司であろう。日附の下に、石足に付すと書いてあるのは、石足を使者とし…

写経所から出した啓

右両様の言葉を持っている文書の間にも、或るものは公の意味を多分に、或るものは私の意味を多分に持っているものとの差異がある。説明の順序としては、前者を先に、後者を後に挙げることとする。 (略) 之は写経所から出した啓であって、同所から出す一種…

正倉院文書の中の私の文書

第一 書札様文書 自奈良時代至平安時代中期 第一類 状・啓 正倉院文書の中には、私の文書の形式を具えたものも少なくない。今之を通覧すると、その文中に啓、若しくは状と云う言葉を用いている。依って此等の文書を啓・状と称して観察することとする。先づ便…

書札様文書を時代に分けて取り上げる

かような次第であるから、本項に於いては、書札礼の著しく現れて来た以前、即ち奈良時代の書札から、平安時代の中期に於ける書札を一段に、次に平安時代末期からその後の時代の書札を一段に纏めて記述する。而して平安時代末期以後、書札礼中心時代の書札を…

弘安礼節の書中礼

書札礼に関する文献として、最も重要なるものは、弘安礼節の中にある書中礼がそれである。この書礼は、弘安八年公家に於いて、諸礼を制定した時共に定めたものであるが、その内容は、この時代に至って突如として案出したのでは無く、これより前恐らく平安時…

往来物と書札礼とは作成目的が全然別物

之に反して、文書の差出者受取者との相互関係に依って、書札を書くべき種々の形式、或いは一般文書作成上の礼儀、技術を伝えるために作られたものが即ち書札礼である。かように往来物と書札礼とは、その作成の目的を全然異にしているのである。とのことです。

往来物は書札の形式を学ぶものではない

然し、此等往来物の内容は、如何にも当時の書札の形式を具えた書状を収めているけれども、その各書状の形式に至っては、互いに大同小異であって、当時その形式のみで社会各方面の人々の間に於いて取り交す書札の形式を充分満たし得ていたとは到底考えられな…

藤原明衡の明衡往来またの名雲州消息

而して書礼と雖も公の文書と関係があって、既に屡々引用した公式令に挙ぐるところの公文書の書式に準じて作ったものもあるであろう。平安時代に至っては、漢文学が隆盛となって、書札の文章に純粋の漢文を交えるものも現れ、その文範を示す文献も作られた。…

中世に発達した書札礼

中世時代に発達した書札礼は、この書札様文書の各書式を中心にして、文書作成上の儀礼を示すために起こったものである。従って書札様文書に就いて述べる時は、この書札礼と連関して観察を進めて行く必要がある。 然し、中世の書札礼が現れて来る前の時代にも…

書札の書式に帰一している

又直状も奉書も、その差出す側の主格の地位と、文書に書き表す内容とに依って、種々の名称を以て呼ばれている。かように書札様文書は意義に於いて公私の区別、名称に於いて各様の区別が付いていたので、如何にも複雑しているように思われるけれども、その書…