2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

高倉天皇から守覚法親王に賜った宸筆の御消息

〔二五七〕に挙げたのは、高倉天皇が(治承二年)十一月十三日、御室の守覚法親王に賜った宸筆の御消息である。此年十一月中宮平徳子平産の御祈祷として、親王が平清盛の六波羅の第で孔雀経法を修せられ、皇子安徳天皇が御降誕あらせられたので、その法験并…

御書の書止めは「何々候也」

天皇の御書礼に就いては、弘安書中礼始め諸書札礼に見るところが無い。固より当然のことである。唯順徳天皇の御撰禁秘抄中に、天皇の御書の事と題して、『天子の御書惣じて御名を書かず、父王と雖も恐々の字を書かず、但し予仙院を恐るること先代に超え、仍…

三合之厄運、両度之変異

第一類 宸筆御消息・御書 御筆御消息・御書 (略) この文書は後嵯峨天皇が寛元四年四月十五日、仁和寺御室の道深法親王に賜った宸筆の御消息である。御文中「三合之厄運」とあるは、寛元三年に当たり、「両度之変異」とは、同年正月廿六日客星東南に現れ、…

特殊の形様を具えた書札様の文書

なお書札様の文書は、直状奉書何れも、その差出者と受取者との関係、又その記事の内容に依って、種々書式を異にしているものである。直状奉書の各部類を挙げた次に、この各種の書式が如何に分かれているか、これを表示して諸々の書札様の文書を取扱うたより…

書札式の直状、奉書、一般の直状

ここでは公私の別は暫く措いて、直状と奉書との両様に部類して説明を加えることにする。直状と奉書とを更に細かく観察すると、之を小さい部類に分けることもできる。始めに直状と奉書にとに大きく分け、次にその中に如何なる部類があるか之を記述する。この…

奉書御教書は公の意味がある

奉書御教書は、奉仕者が出すものであるから、そこに自から公の意味が現れている。書状消息に至ってはかような意味が無いように思われるけれども、その出す者によって、又そこに表向の意味を大いに現すものである。奉書と直状とを公文書と私文書とに代る名詞…

直状と奉書

而してその書式に至っては、奉仕者の地位に依ってその書式が定まっていた。その書式は奉仕者が消息書状を出す書式に準じて書いたものであった。同じ書札の書式が、直接出す消息書状と、間接の形式をとった奉書御教書との両方に現れて来たのである。直接出す…

奉書御教書

第二 書札様文書 平安時代末期以後 平安時代の中期迄は、消息書状は単に私の意味の文書たるに止まっていたが、此頃からその書式が奉書御教書と呼ぶものに用いられて来た。この奉書御教書は、高い地位にある者が、自ら直接出すべき消息書状に代えて、側近に奉…

この時代の書状消息は、正倉院文書の啓状程多くない。

この時代の書状消息の伝わる数は、正倉院文書の啓状程多くない。従って右に記述し各例文に於いて、啓状に見る程の多様性を発見し得ないのかも知れない。然し之は必ずしもこの事情に依るのでは無く、当時かかる例文が奈良時代よりも単調化して来た傾向を示す…

宛名の下に付ける敬語、大抵殿

次に宛名の下に付ける敬語は、それを付ければ大抵殿で、中に御曹司、御室或いは御房と書いたものもある。御室と併せて殿を敬語に用いた意味がよく判る。更に脇付は、宿所最も多く、小舎人所等があり、之と並べて謹空と書いて、即ち以上の意味を表したものも…

日付下の差出所、某状 充所上の上所、謹上

次に日附下の差出所は、 某状 某上 某状上 の如く類が少なくなり、且つ之を付けていないものが多くなっている。 次に充所の上部に加わる上所は、 謹上 進上 謹々上 謹謹上 の四種に限るようである。とのことです。

書出しは某謹言が最も多い

以上記述した平安時代の書状に就いて、その書出し書止め、日附下に於ける差出所及び充所の各部分が、如何に記されているか、その例を挙示してみると、 書出しに差出所を表した文言は、 某謹言 某恐々謹言 某頓首再拝跪言 の如きがある。始めの某謹言が最も多…

紙背文書の闕字

右に挙げた中には、本文書出しにも差出所のある書状があるが、之が無く、書止めと、日附の下との二箇所にある書状もある。之は書状の性質に依って、書出しに記す文言にも依ることであろう。〔二五五〕〔二五六〕はその例である。 紙背文書は料紙に用いる時、…

小野道風の書状

扨てこの佐理の書状の書式は、この人よりも一つ前の時代の小野道風の書状にも現れている。集古浪華帖第二に道風の書状が十一通収めてあるが、大体佐理のものと同じ書式を具えておる。今その一例を示すと、〔二五一〕の如きものである。なお佐理が薨じた長徳…

平出か少なくとも闕字

次に文中に見える殿下の文字は偶改行となっているが、その下の御坐が闕字になっている点から推すと、平出か否かは明らかでないが、少なくとも闕字を用いたであろう。然しこれは前述の如く最澄并に円仁の書状に見えている書礼である。而して謹上の上所も宿所…

書出しと同じものが書止めにも用いている

この書出しの書き方と同じものが、書止めにも用いてある。之も奈良時代の啓状に見え、且つ前記空海、円仁の書状にも見えている。日附の下の差出所に旅士と書いて、その身現在の情況を表した書き方は、卑下した言葉を書いた奈良時代の啓状若くは最澄の書状と…

藤原佐理の花押

この書式は、正倉院文書啓状の第一二式に当たるものである。然しその書出しに差出所を記す場合名を真行書を以て書かず、図版に見る如きものを書いている。之が即ち花押である。奈良時代に於いて垣守謹啓と書いた如く佐理謹言と書くべきを、その実名に代える…

藤原佐理の消息

(略) この文書は藤原佐理が、正暦二年正月太宰大弐に任ぜられ、その任地に赴く途中長門赤間関に至り、在京の春宮権大夫藤原誠信に、離京後の無音を謝し、摂政藤原道隆の起居を尋ね、更に任地に進む前途に就いて報ずるために出した消息である。とのことです…

和南、合掌礼拝して敬意を表す

次に本文書止めの和南は、合掌礼拝して敬意を表する意味で、多く僧侶の方で用いる言葉である。正倉院文書の啓状には現れていない。次に脇付の法前及び謹空は既に述べた通りである。差出所の下附に状上も前段に示した如く正倉院文書の啓状に見え、又実名の上…

平出と闕字

次に又図版に見る如く、第三行目大阿闍梨即ち空海を指した言葉は、行が更めてある。これが書礼の上で云うへ平出である。なお同じ人を指す阿闍梨及び座下と言葉の上一字分が明けてある。之が又書礼で闕字と云うものである。かようにこの書状には平出、闕字が…

本文から余程下がった位置からはじめる追而書

この書式は、前陳正倉院文書啓状の第一四式のものに当たる。充所の次は、追而書である。追而書は前述の啓状にもあり、その書き始めに更啓と記しておるものもある。而してその書き出しは本文と同じ高さから始めている。この最澄のものは、図版に見る如く本文…

最澄が、空海の弟子泰範に送った書状

第二式 (略) この文書は、最澄が空海の弟子高雄山の泰範に送った書状である。空海から最澄に五ハチ詩序と云うものを贈ったが、その中に一百廿礼仏等の事があったが、今この送詩に対して答えるに、その礼仏等の事を知らないから、之を空海に尋ねて報知せら…

謹空、後世の追而書の已上に当たる

前陳正倉院文書の啓状にも見え、この後に挙げる最澄の書状の追而書にもある。充名の次に追而書を記して紙面を塞いだ上に、更に空しくあけるのでは不合理に思われる。之を以上と解釈するとよくその意味を理解し得るのである。後世書札の追而書の書止めに已上…

謹空とは如何なる意味であろうか

次に謹空と云う言葉は如何なる意味であろうか。五日附のものにも法前と云う脇付と共に書いてある。謹空は唐朝書儀にも挙げてあり、前陳正倉院文書の啓状にも散見している。充所の人がその書状を受けて心覚を記すを慮って予め謹みて空けておく意味であるとの…

東嶺金蘭、東峯叡山に美しい言葉副えて

前掲書状の充所、東嶺金蘭は、最澄の居る東嶺叡山を表し、その下に金蘭と美しい言葉を副えて先方を直接に表さず漠然と示して、尊敬の意を表しているのである。五日附のものには止観座主とある。即ち比叡山止観院座主と同じ意味である。之は先のものよりは少…

弘法大師の風信帖、書状の形式上も重要な資料

この書式の特徴は書止めに釈空海と差出所を表し、その下に状上と敬語を書いた点にある。この書式と同じ式は、前陳奈良時代の啓状一四式の中にはない。唯第五式は右に述べた特徴と全く一致しているが、この書式に具えている充所を欠いている。この書状に続い…

空海の風信帖

第二類 消息・書状 第一式 (略) この文書は空海が比叡山の最澄の来書に答え、仏法の大事因縁を研究せんとして、室生山にある空海の法弟堅慧と共に一所に会せんことを嘱せんために送ったものである。ㇾ商とあるは商量と書くべきを誤ったので符号を付けたの…

儀礼を重んじた中世の書状消息

中世時代の書状消息に就いてみても、自筆で書いた純粋に私的なものには、一定の書礼になづまぬものが多いのである。同一人の書状消息でも、自筆であると種々に書き表すものがある。畢竟奈良時代の啓状は、純粋の私的意義を持っていたところに、書礼の画然た…

啓状を自ら書いていた時代

この傾向は差出者が啓状を自ら書くと云うことを本義としていた時代であるところから生じたものとも考えられる。尤も先に列挙した啓には、公の意義を持ち、差出者が筆を執らず筆官をして書かしめているものもある。然し例示した大多数は差出者の自筆である。…

上下厚薄の度合を判然と認めることが出来ない

終わりに以上列記した総べての例文を綜合して観察するに、鄭重さを表す厚薄に依って、種々の例文が多くなり少なくなっていることが認められる。乍然中世の書札礼の如く、例文の表し方相互の間に判然と現れている慣習の如きものを求めることは出来ない。本文…