口宣、上卿に与えた控えか、懐中に秘めたものか

まず職事が勅旨を伝える場合、これを文書に表したものを口宣書とも称した。実物の伝わる早い時のものはないが、兵範記仁安二年十二月十三日の条にある文書が管見に入った最古のものである。中右記にも口宣という言葉が現れているが、それに当たる文書は同記のなかにはない。

しかし口宣と称する文書は、その文字の示す通り、職事が口づから宣することであって、これを文書に表したものを、上卿に与えるというのが本義ではない。元来上卿から文書を求めた時に与えるのであって、そうでないときは懐中に秘めておくべきものであった。しかし後世に至っては、これを必ず上卿に与える慣例となったのである。

兵範記の口宣は、同記の筆者蔵人頭たる信範が、上卿に与えたものの控か、あるいはこれを懐中に秘めておいたままのものか明らかでなく、なお同記の記事によっては、これをいかに取り扱ったものかをも明らかにすることができない。口宣はまた職事の仰詞とも称し、またこれを宣旨とも称したのである。とのことです。