元来礼紙には、文字が書いて無いものもあった為、之を他の料紙に利用するところから、もとのままに伝わらぬものが少なくない。印判状にして今礼紙の無いことも、或いはかような事情に依るのかも知れない。然し折紙を用いて、印判状よりも数多く今に伝わっている判物でも、かかる礼紙を具えているものの極めて稀であるにも拘らず、武田家印判状に限って、右の如き実例のあるのは、何か偶然でないように思われる。或いは武田家の印判状に限る特殊の書礼であったかとも推想される。ともあれかく白紙の礼紙が、今日に至る迄大切に保存されて来たことは、実に喜ばしいことと申さねばならぬ。これに付けても、若しかかる文書が巻物にでも表装されていたならば、果たして当時の白紙をもとのままによく保存し得たであろうか。古文書保存の方法に就いても大いに考えさせられるものがある。とのことです。