花押より上位に黒印を捺した異式といえる武田恕鑑の伊勢御師宛印判状

〔五八六〕も之に類する文書である。天正十一年三月六日、上野太田の由良國繁が長楽寺に霊供田を寄せた時に出したもので、國繁と花押との字面に重郭正圓の朱印が捺してある。

右二通の本文書止めは、何れも「如件」となっているが、特に之に敬語を付けたものもある。〔五八七〕はその一例である。この文書は享禄三年十一月十四日、上総酒井の武田恕鑑(保信)が、伊勢大神宮の御師龍大夫に、上総国参宮の道者は、悉く先例の如く龍大夫を御師として参詣を遂ぐべきことを告げたものである。恕鑑の下に印文「徳」とある黒印を捺し、その下に花押が書いてある。先のものは花押の面に捺してあるのに、之は花押よりは上位に捺してあって、異式とすべきものである。「恐々謹言」の敬語を付けたのは、御師に対して特に敬意を表した書き振りである。とのことです。