花押の型を用いてその上を墨にて塗ったものの初見

(略)

この文書の裏面には図版に見る如く花押があるが、之は上杉顕定のものである。この目録は、顕定がその子に伊豆平井郷以下三箇所を譲与する時に作ったものであろう。目録には宛名を書かないのが通例である。ここに顕定の花押を見るに、その形様が如何にも規矩を当てた如く整った形を示している。之は筆にて自由に書いたのでは無く、必ずや花押の型とも云うべきものを用い、それにて輪郭を画いて填墨したか、或いは型を押して墨影の上を更に丁寧に補墨したものと思われる。花押の印に就いては、すでに鎌倉時代の末期から始まっていることを述べたが、この顕定の花押は、型を用いてその上を墨にて塗ったものの先づ初見とすべきものと思われる。この後戦国時代から江戸時代に亙って、花押の型を押して塗ることが大いに行われたのであるが、この顕定の花押は、その早い時の例を知るべき資料として注目に値する。とのことです。