次に〔六九七〕に挙げたものは、建徳元年十二月晦日、通恵聖院成助と申す僧が、聖朝安穏天下泰平并に某家繁盛のために長日即ち一年中を通じて修した祈祷の巻数である。巻数には前に挙げた例の如く、或る期日を限って修した時のものと、一年中を通じて修し、その歳末に差し出すものと二様があったのである。図版に示したものと、部類編に挙げたものと少しく書式を異にしている。後者は天台真言宗の寺院から出す一定した書式であり、前者は幾分禅宗式の書様が加えられたものと思われる。
巻数は紙に書くのであるが、これを願主に贈るときは木枝に付けて差上ぐるのである。従って巻数を数えるには一枝と称している。先に説いた願主の之が請取として出した返事に、「巻数一枝給候了」等と書いてあるのは、之がためである。なお巻数の作成には細かい故実が伝わり、之に関する事柄を一書に著したものがある。とのことです。