願文は文章道の人が作成し世尊寺家など能書の者が清書する

願文の書式としては、右に挙げた勅願文の如く先づ敬白と書き、次に仏事作善の事々を列挙し、之を終えて行を更めて右云々と願意を詳細に書き、謹みて敬白する意味のことを記して文を終わる。次に日附を書いて、日下に願主が位署を加える。大体かくの如き形式であった。文章は主に漢文体であったが、宣命体を執るものもあり、又仮名で和文に綴るものもあった。和文宣命体の願文を書き流すところから起こったものであろう。

願文は元来鄭重に作成すべき文書であった。儀礼を重んずべきためには、文章道の人が文を作成して、能書の者が之を清書を致す慣例となっている。前記後醍醐天皇の勅願文は、東寶記に依ると、草案は式部大輔菅原長員が作り、清書は世尊寺行房が致した。世尊寺家は此の頃まで代々朝廷のかかる儀礼を重んずべき文書の清書に携わっていたのである。

前記勅願文の日附の中、「廿三」の両字と御諱とは宸翰を染めさせられたものである。とのことです。