蔵人所の口宣案はたいてい宿紙を用いる

第一九図 蔵人頭中御門経氏奉口宣案

蔵人頭中御門経氏が石清水八幡宮寺修理別当田中堯清を権別当に、法眼和尚位承清を修理別当に任ずる勅旨を表したものである。前述のごとく、口宣は元来上卿に与えるべきものではなく、いわば心覚の控であった。したがってこの口宣はこの意味からして実物であっても口宣案と称したのである。すなわち上に挙げた文書は蔵人頭中御門経氏の口宣案と申すものである。蔵人所から出る文書、もしくは蔵人が出す文書は多く宿紙、すなわち漉返紙薄墨紙を用いたのである。かの蔵人の勅命を奉じて出す綸旨が宿紙を用い、薄墨の綸旨という称呼もここから出てくるのである。この口宣案も蔵人が書いたものであるから、大抵宿紙を用いている。しかし、まま白紙を用いていることもある。上に示した経氏の口宣案は、通例のごとくその料紙は宿紙である。