平出と闕字

次に又図版に見る如く、第三行目大阿闍梨即ち空海を指した言葉は、行が更めてある。これが書礼の上で云うへ平出である。なお同じ人を指す阿闍梨及び座下と言葉の上一字分が明けてある。之が又書礼で闕字と云うものである。かようにこの書状には平出、闕字が用いてある。〔二五〇〕に収めた僧円仁の書状にも闕字の礼法を用いている。正倉院文書の啓状には之が見えていない。之は時代に依る相違を示すものか注意を要する問題である。奈良時代に制定した大宝令中の公式令には、平出闕字の書礼が明らかに示してある。当時は之に指示した言葉に限り、然も公の文書に限ったものであって、平人の啓状に及ぼすべき制規で無かったかとも考えられる。とのことです。