天皇在位中に譲位後の御所とした後院(ごいん)

ろ 後院庁下文

後院(ごいん)とは、天皇御在位中予ねて御譲位後移らせ給うところと定められたものであって、嵯峨天皇の冷泉院に始まるという。後院にも院庁と同様、別當以下の職員があって、これらの人々が下文を出している。〔九二〕に挙げたものはその一例で、建久七年五月、後鳥羽天皇院庁下文であって、文治二年後白河法皇高野山金剛峰寺大塔料所に寄進せられた備後国太田庄官に下したもので、同庄が長く大塔料所として離るることなく、不断金剛界胎蔵界両秘法の用途を進納するようにとの仰を伝えたものである。

院庁下文の書式は、院庁下文とほとんど異なるところがない。後院庁下文の伝わるものは極めて少なく、ここに挙げたもの以外、管見に入るもの僅かに二通に過ぎない。いずれも鎌倉時代のものである。数は少ないけれども、後院の制度を見るうえに極めて貴重な資料である。とのことです。