花押の裏に実名が書かれている

第六種 諸家下文

い 摂政関白家政所下文

前述のごとく公卿の家には政所を設け、ここにおいて別當以下の家司が家務を執り、その命令を下に伝えるために、政所の下文を出した。これには摂政関白家のものを始めとして、諸家のものが伝わっている。前掲の図版は、摂政近衛基通の家の政所が院宣に依り、筑前国筥崎宮石清水八幡宮の別宮に寄進せることを、筥崎宮司に伝えるために下した下文である。前陳の院庁下文等と、その書式の骨子において異なるところは無い。家司の位署の下に、裏書として実名を挙げてあるものは、花押の裏に書いてあるものであって、当時文書の授受が済んだ後に覚として加えたものと思われる。

〔一〇一〕として挙げたのは、保元元年十月、関白藤原忠通が、香取社大禰宜大中臣惟房をして、親父實房の譲状に任せて、社領葛原牧内織幡小野両村を領知せしめんことを、同社司に伝えるために下したものである。藤氏の長者として、氏社に対して出した下文である。袖に使者の名が記載してあるのは、この下文を持参して下総国に下る人を表しているのである。とのことです。