禅僧が印を一般の文書に捺すようになったことを示す円覚寺黄梅院華厳塔再建勧進のための勧縁疏

上に図版に掲げたものも勧進帳の一種である。本文は便宜〔七〇三〕に収めてある。至徳四(元中四)年五月、義堂周信が、円覚寺黄梅院華厳塔再建の勧進のために作った勧縁疏である。料紙は罫紙を用いたところもあり、上下に金銀の箔を散し、美しく装飾が加えてある。勧進帳には、その本文に続いてこの勧進に応じた人々が、その奉加せる由、若しくは金額を記し、その下に名を記す者がある。華厳塔の勧縁疏は、この形式をとり、勧進帳と奉加帳とが合わさったものである。之に奉加した人は、将軍足利義満を始め、殊に五山の僧侶が多い。義満以下の俗家のものは花押を据えているが、禅僧の名の下には、字を印文とした朱字白文の朱印が捺してある。之に依って俗家が花押を据えべきところに、禅僧は之を成さず、印を捺していることが知られる。これは禅僧が、印を一般の文書に捺すようになった事実を示すものとして、印の歴史を考える上に誠に貴重な資料である。とのことです。