入宋入元するであろう僧の度縁

右両者の度縁が版刻であることは、度縁の本文が一定して変化を必要とせず、且つ一度に多数発行する事情に依るのであろう。然しここに注意すべきは、文書の差出者たる官人の位署が何れも支那の位官を記していることと、「天皇御璽」の内印にあらずして、「皇帝官印」の印を捺し、又外印は単郭のものであるのに、重郭のものを捺していることである。之に就いては、先づ二様に考えることができるであろう。此等の度縁は日附の時に受けたものでは無い。度縁を受けた両人の僧侶は何れも入宋入元したのであるから、彼地に渡ってその履歴を示す為めに、渡海に際して特に交附を受けたものであり、支那の地に於て他に見せべきものであるから、位官に支那のものを用いたと考え得る。又日附の時に受けたもので、当時この両僧が求法の為めに渡海するか否やは確定していなかったけれども、僧侶としては又特に禅僧に於ては求法の為め渡海する予想を抱き得たわけであるから、位官に支那のものを用いたとも考えられる。何れにしても当時求法僧渡海の関係からかかる形式の度縁が用いられたものと思われる。とのことです。